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連載 「電子決済の存在意義を問う」 最終回 プリペイドカードに必要な「割り切り」と「大胆さ」

2015/11/30

連載 「電子決済の存在意義を問う」 最終回 プリペイドカードに必要な「割り切り」と「大胆さ」 参入が続くハウスプリペイドカード

 セブン&アイのnanaco、イオンのWAONは、ポイント付与と連動した販促を積極的に展開し、開始後数年で回数シェア、金額シェアでトップを取った。
 他社は、楽天Edyや交通系のような汎用電子マネーでは、両社のような展開策が採れないことにようやく気づき出した。
 また、ICカードの中にバリューを保存するのではなく、センター管理とすることでカードコストを下げる手法が編み出されたことも参入障壁を下げた。
 この結果、ここ数年は流通業界で自社のプリペイドカードを導入する企業が相次いだ。ユニーグループのユニコ、ドン・キホーテのmajica、タリーズカードなどである。  クレジットの国際ブランドのスキームを用いた事例にはココカラファイン、au、ソフトバンクのプリペイドカードなどがある。
 また、今年6月にはファミリーマートでTポイントカードに電子マネー機能を付加した「Tマネー」が使えるようになり、11月にはローソンがPontaにJCBのブランド・プリペイド機能が付いた「おさいふPonta」の発行を始めた。
 なぜプリペイドなのかと、数社に尋ねたところ、「ポイントでは囲い込み効果が乏しいから」という答えであった。一面では正しいのだが、反面、積極的な勧誘や特典付与を行わないと、プリペイドカードに継続的にチャージさせることは非常に難しいということを、どこまで認識できているのかという疑問も残った。プリペイドカードを成功させるのは決して容易ではないのである。
 利用者に再度チャージをさせるためには、高い利用頻度が見込まれること、厚い特典があることなどが必須となる。定常的に来店する客が見込めないならば、他店に広範囲に展開して使える場所を増やすしかないが、これには膨大なコストがかかる。
 あるいは、使い切りで再チャージはされなくても良いと割り切るかである。割り切って成功した事例はmajicaだ。ドン・キホーテの傘下には長崎屋を母体とするMEGAドン・キホーテがあり、そこでのリピーターは多いが、他店になると来店頻度が減る。しかし、ポイント付与はプリペイドカードのみという絞り込み策が功を奏し、中国人観光客の爆買いの際にも多用されている。1回の使い切りで再チャージはほとんどされないと思われるが、5カ月で150万人を獲得し、同社は予想以上の成功を収めている。
 セブン&アイやイオンで実施されている、電子決済でないとポイントが付かないという絞り込み策は非常に重要である。
 自社マネー以外の電子決済が使えて、さらにポイントを付与するのでは、加盟店手数料とポイント原資の負担が重過ぎ、それに見合った効果は見込みがたいことから、結局薄いばらまき策となる。電子決済のメインを定め、そこに原資を集中すべきで、分散させては意味が無い。

各回使い切り型が意外に多い


 プリペイドカードというと、往年のテレホンカードのように、何回かに分けて利用するイメージが強いが、実は電子マネーの利用実態とはかなり異なる。日銀統計を見ると決済金額の伸びほどにはチャージ残高は伸びていない(グラフ参照)。昨年は利用額4兆円に対して残高はわずか5%の2000億円に過ぎず、プリペイドカードのこれまでの常識では説明ができない。
 おそらく、購入の都度、必要な金額をチャージして使う、あるいは足りない分をチャージする、または不足分を現金併用するというような利用法が、特に平均購入単価を引き上げているイオンやイトーヨーカ堂などで多いのではないかと筆者は考えている。こんな七面倒臭い方法を客に強いるなら、むしろ釣銭をチャージできる「お釣りカード」の方が便利だと思うのだが、まだ実施例は無い。
 中国人観光客が爆買いの際にmajicaを使い切りで利用する形態に似た例が増え、プリペイドカードの概念が変化しているものと筆者は考えている。多額の残金があれば確かに強固な囲い込み手段になるが、各回使い切りだと残額の最後を使いにいく程度の意味しかない。その点を十分に見極める必要があるだろう。
 電子決済の利用促進を図る上では、二重価格制も一つのやり方だろう。ガソリンスタンドの会員価格、生協の組合員価格のようなもので、電子マネーやハウスカードを使った時の売価を定価より下げ、利用を促す。貯めないと意味の無いポイントよりも、即座にメリットが享受できるので、訴求性は高いと思われるのだが、普及しないのはなぜだろうか。
 あるいはポイントの累進性である。航空会社のマイレージ付与率の事例が分かりやすいが、高いランクの会員はポイントの付与率が累進的に高くなる方法である。実施例が無いわけではないが、これも普及していない。
「ポイントはあまり効果が無い」「繰り返しチャージは期待できない」というような議論をよく耳にするが、それは逆で、効果が出る方策を大胆に実施できない、あるいは単に工夫が足りないからだとも思える。ハウスプリペイドカードの新規導入は続いているが、成功事例は少ない。当たり前のことだが、形だけ真似るだけでは成功せず、斬新な工夫が必要だ。

カード会社もPOSメーカーも頼れない


 ところで、ポイント制度は格段の成功事例が見出せず、電子マネーもイオンとセブン&アイの2社が突出しているだけである。なぜこうなってしまったのかと考えてみると、小売店が自ら戦略を練ってきたかどうかにかかっていることがわかる。2社ほどの大成功ではないものの、スターバックスカードや、一時期は利用率が4割を超えたマクドナルドの「かざすクーポン」などはスマッシュ・ヒットである。独自の戦略を練り上げ、然るべき投資を行えば成功するのである。
 カード会社は新規商品の売り込みには来るが、ヒントを与えてくれるだけで、回答は小売店自らが考えなくてはならない。POSメーカーに至っては数社競合の状態にでも追い込まれない限り、新規の提案は一切しない。
 また、POSメーカーの営業マンは新しい電子決済に関する知見自体が乏しいことが多いので、相談相手にはあまりならないのである。
 ただし、電子決済事業者もPOSメーカーもまともに加盟店支援をしない現状を見て、小売業界に対して、ポイント、販促、電子決済をセットにしたソリューションを提供しようと試みる動きが出てきている。将来に期待したいところだ。
(電子決済コンサルタント 結城 宏)

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