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連載「電子決済の存在意義を問う」 第2回 利用率4割で見えてくる電子マネーの本当の恩恵

2015/11/30

連載「電子決済の存在意義を問う」 第2回 利用率4割で見えてくる電子マネーの本当の恩恵 お客の要望は多いが囲い込みにはならない
 
 2000年頃から日本の電子決済には次々に新たなスキームが導入された。デビットカード、電子マネーなどである。新たな電子決済手段が次々に登場し、広く普及したことによって、国民にとっては確かに便利な世の中になった。
 しかし小売業界にとって、電子決済の導入は果たして経営に貢献しただろうか。加盟店手数料に見合った効果があっただろうか。より端的に言えば、例えば電子マネーを導入した店舗で売り上げは増えただろうかと突き詰めると、成功事例は、極めて少ないのが実態である。
 小売店側の判断ミスの典型例が、「来店客の間では電子マネーの要望が多い」との理由で導入するケースである。確かに来店客にとっては便利だろうし、導入を検討する社員も、日常生活では電子マネーの利便性を享受しているので、納得しがちなのである。
 しかし、さらに「電子マネーが使えたら他店には行きませんか」、「電子マネーが使えなかったら当店には来ませんか」と問えば答えはどうだろうか。電子マネーはそこまで強力な囲い込み手段にはならないし、販促上の効果も期待できない。
 また、初めは無償で配布された端末であっても、後でツケが回る場合もある。
 POSやクレジット端末は数年で更新されるが、システム更新時にも端末が無償配布されるとは限らない。利用率がゼロならやめてしまえば良いが、たとえ数パーセントでも利用者がいると、クレームを恐れるあまり、経営には貢献しない端末を有償で購入する羽目になる。ここ数年はPOSの更改時期にあたるので、こうした悩みを抱えたチェーン店は少なくない。
 また、電子マネーの仕組み上の課題もある。よくあるのは残高不足で、現金との併用払いは却って面倒な処理となる。さらに電子マネーで支払った商品の返品の際には、現金で返金するルールが一般的なため、返品すると利用者はタダでポイントが貯まり、加盟店は手数料の取られ損になる。
 また、返品処理は特殊で煩雑な作業となるので、アルバイトやパートの店員では処理しきれず、店長などに泣きつく場合が多い。 この結果、返金処理に手間取り、レジの前には長蛇の列ができることになる。しかも、電子マネーでの返品でポイントをタダ取りする裏ワザは結構知られているため、意図的に返品を繰り返す事例もある。
 こうなると電子マネーは来店客には便利でも、加盟店にとっては迷惑この上ないものとなる。
 電子マネーの利用率が低い店舗の現場では、導入効果はほとんど無いにもかかわらず、こうした弊害が目立つことになっているのだが、本社の経営幹部にはあまり知られていない。
 電子マネーの利用者が多い首都圏などでは、電子決済の利用率が自然に売り上げの1割を超す場合が少なくないが、実はこの程度の利用率では、加盟店にとってのメリットは無く、成功とは言い難い。

利用率が2割を超えれば5割達成も夢ではない
 
 ところが電子決済の利用率が5割を超えると、電子決済は店舗にとっても導入効果がはっきりと感じ取れるようになってくる。電子決済の導入が成功と言える尺度は、筆者は利用率4割と考えている。
 イオン本体では電子決済の比率は約7割に達しており、イトーヨーカ堂でも電子決済の比率が5割を超えている。リピーターの多い食料品売り場などでは大半が電子マネーかクレジットの利用者となっている。
 こうした店舗での決済シーンでは従来とは異なった光景を見ることができる。小銭を数えて支払う必要が無いので、決済時間は短くなるし、そもそも現金の扱い量が半減するので、釣銭の準備金も減り、現金の計数も楽になる。
 また、釣銭支払い時の違算も理屈上は半減する。セルフレジの導入も容易になり、店員の教育も楽になる。仮に電子決済比率が8割を超すような状況になれば、電子決済専用レーンも可能となり、自動釣銭機などは不要になる。
 来店客の大半をカード番号で把握できるので緻密な顧客管理も可能となれば、ポイントカードの処理と現金処理を併用する手間も省ける。その導入メリットは多方面に及ぶのだ。
 電子決済の利便性は、実は高齢者になるほど強く実感できる。小銭を選び勘定すること自体が負担になるためである。
 その一方で高齢者が自発的に電子決済に飛びつくわけでもないので、店舗側の積極的な誘導が不可欠となる。イオンでは年金支給日の15日に合わせた「G・G感謝デー」対応WAONや、65歳以上対象の「ゆうゆうワオン」など、シニア層をターゲットに普及策にも尽力している。今後、ますます高齢化が進む中で、電子決済は販売施策のキーワードでもあるのだ。
 利用率の低い店舗にとって厄介なのは、電子マネーの利用件数と利用金額がほぼ単純な右肩上がりであることだ。
 右肩上がりの原動力は、高額決済にも電子マネーを利用するように国民の購買行動が変化していることである。08年には平均決済金額は720円であったが、昨年は994円となっており、今年は確実に1000円を超す。平均のチャージ金額がそれだけ高くなってきているのである。このため、ファーストフードやコンビニなどの小額決済主体の店舗でなくとも、電子マネーが使われるようになっているのだ。
 小売店としては、メリットのない電子マネーの利用を促進させる気がなくても、勝手に利用率は上がっていくのである。おそらく20年ごろには2000円未満の決済には普通に電子マネーが使われるようになる。
 一方でクレジットカードの小額決済での利用も増加しており、1000円台の決済にクレジットカードが使われるケースも今より格段に増えるはずである。首都圏の多くの業種では電子決済比率が2割を超すことになるだろう。
 実は2割前後の利用率の時が、店先の現場では電子決済を最も苦痛に感じる。メリットがさほど享受できない割には、弊害が無視できなくなるからだ。
 ところが、全く視点を変えて、利用率向上を目指すなら、利用率が2割を超えることによって、5割の利用率達成も夢ではなくなる。数パーセントの利用率を5割にするのはほとんど不可能だが、自然に2割を超えているのなら、促進策によって利用率を倍増することは現実味があるからだ。電子決済への取り組み姿勢が大きな差を産むことになる。
(電子決済コンサルタント 結城 宏)

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