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連載 「電子決済の存在意義を問う」 第3回 ブランドプリペイドに見るカード会社の怠慢

2015/11/30

連載 「電子決済の存在意義を問う」 第3回 ブランドプリペイドに見るカード会社の怠慢 VISAデビットカード事件

 昨年の春のことであるが、渋谷の東急百貨店である事件が起こった。VISAデビットカードを巡って客とのトラブルが発生し、東急百貨店のレジの横には、「VISAデビットカードは使えません」という趣旨の貼り紙が掲示されたのだ。百貨店協会でも問題視され、4月中旬には三越、伊勢丹、高島屋、大丸、阪急百貨店も取り扱い拒否の方針を打ち出した。
 事の発端はVISAデビットカードで買い物をした客が、返品処理をしたにもかかわらず、代金が即座に預金口座に払い戻されなかったことに対してクレームをつけたことによる。クレジットカードとは異なり、デビットカードは購入時に即座に代金が口座から引き落とされるが、返金処理は、クレジットと同様に時間がかかりすぐには反映されない。こうした課題を含む決済手段であるにもかかわらず、カード業界は百貨店協会に対して事前に十分な説明を怠っていたことが原因である。
 その後カード会社は百貨店協会に釈明し、7月には大半のデパートでVISAデビットカードの取り扱いが再開されたが、火元の東急百貨店での取り扱い再開は昨年9月末までずれ込んだ。この時期には類似のスキームのau WALLETも百貨店では使用できなかった。
 ブランドデビットカードやブランドプリペイドカードは、13年夏に実施されたVISAの制度改正によって、カード発行会社(イシュア)の事業リスクが減ったことから、新たな決済手段として新規参入が相次いだ。
 ココカラファインのVISAプリペイド、三菱東京UFJ銀行のVISAデビット、マスターカードのスキームを用いたプリペイドのau WALLET、千葉銀行のJCBブランドのデビットカードなどである。
 ところが日本のクレジットカードの決済インフラはこれらの新規サービスに十分に対応しきれておらず、高速道路やガソリンスタンド、コインパーキング、大学生協など利用できない店舗が少なくない。au WALLETに至っては「電子マネー」という宣伝をしたため、非接触の電子マネーのリーダーにカードをかざそうとする客も多く、コンビニ業界では各社共に対応や指導に追われることとなった。

電子決済業界の加盟店軽視体質

 電子マネーや年会費無料のクレジットカードなどでは、加盟店手数料が唯一の収入源であり、加盟店がお客であることは自明なのだが、電子決済業界の加盟店軽視は甚だしいものがある。
たとえばカードの会員番号を顧客管理に応用することには否定的であり、CRMや販促手段の提供もほとんど行われていない。ポイント制度にしても加盟店手数料の一部がカード会員に還元されるに過ぎず、ポイントシステムほどの効果も期待できない。利用客にとっては便利だから導入店舗が喜ばれるというだけでは、手数料支払いによる負担に見合う効果は期待できない。さらに非接触クレジットやブランドプリペイドなどの新サービスが次々に開始されているので、今までは新たな電子決済手段の対応には前向きであったコンビニ業界でさえ、「店員教育も限界で、もうこれ以上増えてほしくない」との声が現場にはある。
 電子決済手段を応用したギフトカードなども同様で、小売業界に対して新規導入の売り込みにカード会社は熱心であるが、発行に漕ぎ付けた途端にカード会社の興味は薄れる。ギフトカードを導入する小売店にとっては、導入よりも普及、利用促進が課題のはずだが、それに対する支援はほとんど無いのが実態だ。
 VISAデビットの事例のように、制度上の課題なども事前に導入企業に説明されているとは言い難く、導入後に初めて問題化することが少なくない。
 カード会社は加盟店獲得が商売であるから甘言を弄して電子決済の長所を力説するが、利用客にとって便利であることが、小売店の販売増に直結するわけではない。導入の際には十分な吟味を要するし、他社の成功事例が自社に当てはまるのかを見極める必要がある。「同業他社は既にやっているから」といった安易な考え方では効果は期待できない。


ブランドプリペイドの効果的活用法


 ココカラファイン、au WALLETなどのブランドプリペイドカードは、継続的にチャージされて使い続けられる割合は非常に低く、スターバックスやドン・キホーテのハウスプリペイドカードに比較したメリットも見いだし難いが、ブランドプリペイドカードにも適した分野がまったく無いわけではない。
 米国ではブランドプリペイドカードはギフトカードとして幅広く普及している。日本のPOSAカードのように販売されているのだ。
 最大のメリットは、ギフトカードであるにもかかわらず、楽天やアマゾンなどの通信販売でも利用できる点にある。紙券やハウスプリペイドではそうはいかない。百貨店やショッピングセンターのテナントの場合も独自の決済手段の導入は難しいが、ブランドプリペイドのスキームはクレジットカードと同一なので支障は無い。
 老舗、名店、化粧品のブランドなど、根強い常連客を持つ店舗は少なくないが、全国津々浦々に出店するのは難しい。
 味、色、香り、デザイン等のバラエティがある商品や、生鮮品の場合には、プレゼントされる側の好みや都合もあるので、送り手は商品を送ることをためらう。こうした場合に、ブランドプリペイドカードをギフトカードに仕立てれば、通販でもテナントでも使え、貰った側は自分の好みの商品を購入できることになるので、その利便性は容易に理解されるはずである。このモデルは非常に効果的であるはずなのだが、こうしたギフトカードの実例は日本ではまだ現れていない。
 一つの原因は、小売店側がブランドプリペイドの可能性を知らないことがあるが、カード会社が小売店の潜在的な欲求を掘り起こせず、効果的な提案活動を怠っていることが主な原因であることは間違いない。
 ブランドプリペイドカードで筆者がこれまでに面白いと思った唯一の事例は、サントリー食品インターナショナルが昨年に実施した「1000万円プレボスカード」のキャンペーンである。1000万円が入金されているVISAプリペイドカードが10名に当たるというもので、世界のVISAの加盟店で使えるというプレミアム感と新たな決済スキームに着目した点が秀逸だった。
 ギフトカードへの応用の可能性を示した一例である。
(電子決済コンサルタント 結城 宏)

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